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ぐるぐるバット~創作落語 [創作落語]

誰しも「一瞬だけでもいいからあの日に戻りたい」という願望はありまして、わたくしの場合、今から19年前の高校1年の夏休み前の昼下がり、家で昼寝をしていたあの日(もしかして昭和時代?)でしょうか。
学校から帰ってお昼寝の真っ最中に女の子から電話がかかってきたんですなぁ。「あの~、私とつきあって下さい」と。わたくしは寝起きで、まさに寝耳に水。「ん?『つきあって』って何のこっちゃ?誰かのドッキリか?」と考えて、「今勉強しているから・・・」てな訳わからん理由つけて電話を切ってもたんですなぁ。
翌日も同じ電話がかかってきたけど、完璧にイタ電や思て電話切ってしまいましたなぁ。翌々日からはかかってきませんでしたわ。
今から思えばだまされていてもいいから「はい」って言っておけばよかったんですが。
勿体ない事しましたなぁ。


さて、ここにおります30過ぎの男、ちと怪しげなインターネットのサイトで「タイムスリップ~あの日に戻る方法」なるページを見つけます。
男「お、タイムスリップ?『こうすれば、あの日あの頃に戻れる』って?これで高校1年の夏休みの前の昼下がりのあの日に戻ってあの電話に出なおしたいなぁ。よっしゃ。この方法で早速あの日にタイムスリップや!」
そんな訳でこの男、早速書いてある通りにタイムスリップを試みております。
男「ふむふむ、『ぐるぐるバットで回転し、その時の目の回転速度が地球の自転速度を超えたら昔にタイムスリップが可能』ってホンマかいな?まるで落語みたいな話やなぁ。『まわりに物がないことを確かめてからぐるぐるしましょう』やて。しかし、何と言うたらええか、こんなことで簡単にタイムスリップできたらドラえもんいらずというか、ドラえもんも商売あがったりやなぁ。まぁ、やってみるかぁ」
と、ぐるぐるバットで回り、目を回し数分後。目の回る速度が地球の自転速度を超えたその時!
男「おぉ~!おぇぇぇぇぇ~!気分わるぅ~・・・。二日酔いより気分悪いやんか・・・。・・・ん?むむむ!ここはどこやねん?もしかしてタイムスリップできたんか?間違いない!やったぁ!あの日の昼下がりや。たしか俺は二階で昼寝していたんやけど・・・」
いとも簡単な方法で、見事にタイムスリップに成功したんですなぁ。二日酔いより気分が悪くなるっちゅうくらいであっという間にタイムスリップできるとはおそるべしぐるぐるパワーですなぁ。

さて、トントントンと階段を上がりますと、高校時代のこの男が寝ております。
男「お、俺や。若いなぁ。今も昔も男前やなぁ・・・おっと、こんな事している場合やない。間もなく電話がかかってくるんや。俺が電話に出んかったら、寝てる俺が起きてきて俺が電話に出るやんか・・・?あれ?ややこしぃなぁ」

と、そうこうしているうちに・・・。
リーン、リーン!
男「ほれほれ、かかってきよったわ電話の鳴り方が昭和やなぁ。。『リーン、リーン!』って」
ガチャ!
男「はいはい、待ってましたぁ!」
女「え?」
男「あ、いやいや、こちらの独り言でして・・・」
女「あのう・・・、私とつきあって下さい」
男「そや、あの時にここで『今勉強してるから』なんて訳のわからん事言って電話切ったから今の俺になってもたんや。真夏の暑い日中のクソ暑い2階で勉強なんかしてる訳ないやんか。ここで『はい』って言わなあかんのやなぁ。『はい』やでぇ・・・」
女「あの~、先ほどからボソボソと独り言ばかり聞こえてるんですけど・・・、わたし・・・と・・・つき・・・あって・・・もらえ・・・ませ・・・ん・・・か?」
男「あ、いえいえ、もちろん、はい、こちらこそこんな歳ですがよろしくおつき合いお願いいたします」
女「え?こんな歳って・・・、私と同い年よ?」
男「お、そやそや、君と同じ高校生やった。忘れとったわい」
女「じゃあ、あたし、学校の門の前で待ってるから来てくれますか?」
ガチャン!

早速、デートの約束になったのであります。
相手が誰かも確かめずに電話を切ったこの男、何年たってもそそっかしさだけは直らないもんです。
幸いにもこの男、あれから20年近くたっているのに強いて言えば笑いジワが増えたくらいで高校時代と風貌がほとんど変わっておらず、喜び勇んで鼻の下を伸ばしてホイホイと待ち合わせ場所の学校の門まで出かけていきますと、そこには深田恭子似の可愛らしい女子高校生が待っておりました。
男「おっ、ほんまにおるやんか。しかも、めちゃくちゃ可愛いし、めちゃくちゃ若いやんか。そりゃ当たり前かぁ。何せ高校1年生やもんなぁ。で、あのコは誰やろなぁ?」
女「こ、こ、こ、こんにちわ・・・。さっきは電話でごめんなさい」
男「あの~・・・、失礼ですが、えーっと・・・何ちゅうたらええか・・・あなた様はどちら様でしょうか?」
女「え?私、あなたと同じクラスの・・・さっき帰りにあなたに声をかけたのに返事もしてくれなくて・・・」
男「あ、そやったそやった。帰りは返事もせんとごめんネ。(向こうは高校1年生、こっちはあれから20年近く経ってる34歳なんやけど・・・。この可愛いコは誰やねん?わからんけど適当に話合わせてりゃ何とかなるやろ)」
女「ずっとあなたの事を横から見ていてそれで・・・」
男「そっかぁ!ボクの隣の席のコなんや!」
女「え?毎日会ってるのに顔も名前も覚えてくれてないの?プンプンッ!」
男「なんや?さとう珠緒みたいなヤツやなぁ。あ、いやいや、そうじゃなくてもちろん知ってるでぇ。君の視線はよう感じてるでぇ。あまりにも突然の電話もろたから記憶が飛ぶくらいドキドキしてるんやぁ」
女「わたしだってドキドキして・・・」
まるであだち充の『タッチ』か『H2』の世界です。
男「こんな所で話をするより、ほな、車でドライブでも行こか?」
女「え?車でドライブって、わたし達まだ高校1年生で免許もないのよ」
男「お、高校1年っちゅうのまた忘れとったわい。え~・・・ほな、車は車でも自転車で行こか」
女「うん」
てな訳で、真夏なら普通はエアコンのきいた車行くであろうに自転車で二人乗りしてデートです。真夏の昼下がりに。若いっていいもんですなぁ。今時のギャルなら「え~っ!車でドライブがいい」て言いよるでしょうが、自転車で二人乗りって昭和チックですなぁ。
まさにあだち充の世界。二人は上杉達也と浅倉南か?
男「君は深田恭子に似ていて可愛いね?」
女「はぁ?深田さんって誰?何組のコ?もしかしてあたしと二股かけてるの?」
男「そや、この時代、深田恭子はおらんのやった。え~っと・・・、そうじゃなくて、とにかく可愛いさに深みがあるってこっちゃ。えーっと、渡辺満里奈に似てるかな?」
女「そう、おにゃん子クラブの渡辺満里奈に似てるってよく言われるのよ」
男「ホッ。適当に言ったけど渡辺満里奈はこの時代、おにゃん子クラブにおったんやなぁ。そう考えたら渡辺満里奈も古いもんや」

話がかみ合わない割にも何とか適当に話を合わせているうちに真上にあった太陽も夕日にかわり楽しい時間が過ぎていくもんです。
女「なんだか学校でのいつもの話しぶりじゃなくって説教臭くてオジン臭いしゃべり方だったけど、今日はありがとネ。楽しかったワ。明日は終業式の後でどこか行く?」
男「(む、む、む、話し方に歳が出るんかぁ)今日はごめんネ。ぐるぐるバットで突然来たもんやから、お金も持ってなくて」
女「ぐるぐる?」
男「あ、いやいや、朝からヨーグルト食べ過ぎてお腹がぐるぐる・・・ってオヤジギャグやがな。ま、こっちの話や。メールアドレスか携帯の番号教えるから、携帯にかけてきて」
女「メルモちゃん?携帯の番号って?何を持ち歩きしてるの?」
男「アハハ・・・(そや、この時代、携帯電話なんてなかったんや)。これまたこっちの話や。じゃまた明日、学校で決めよ。バイバ~イ」

男「話がかみ合わなくても『若さ』だけで何とかなるもんやなぁ。じゃ、現在に帰るかぁ。帰って明日出直すかぁ。ありゃ?帰り方調べるの忘れたわい。インターネットで調べるかぁ・・・?って、えらいこっちゃ!この時代まだインターネットないやんか!」


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ヤクルト

願かけて『ぐるぐるバット』やってみよっと^^
by ヤクルト (2006-05-24 23:43) 

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