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貼り紙 [老人ホーム]

『この紙はがすな!』と何度繰り返し貼り紙をしたでしょうか。
現在老人ホームに入所している私のおばあちゃん(92歳)が認知症を発症しはじめた頃は「○○さんが灰皿持って帰った」とつまらない物が無くなったことや、「私が留守にして帰ったら、□□さんが家に上がって勝手にパン焼いて紅茶飲んでいた」などと、あり得ない滑稽な話をいかにも本当のことのように話すので、おばあちゃんが認知症を発症したとは気づきませんでした。

聡明かつ、時折ユーモアも交えて話をする大正生まれのおばあちゃんが認知症になるなんて想定外の出来事で、そして、その症状が少しずつ進むにつれて、私が仕事中であろうと一日に何度でも電話をかけてきて、かけてきた電話の内容のたいていは「財布がない」とか「通帳がない」とか「印鑑がない」でしたが、時には焦ったような口調で「乗ったタクシーが事故にあって、その時に私のバッグの中身がひっくり返ってタクシーの中で印鑑を落とした」とか「今、泥棒が入って通帳を盗まれた」と深刻なものから「○○さんが植木ばさみを盗って行った」までさまざまでした。
すぐさま駆けつけてバッグや引き出しの中を探したら探し物のたいていは見つかり、その都度何度も何度も「だ、か、ら、泥棒じゃないって言ってるでしょ!泥棒は靴を脱いで家に上がらないから、部屋中がこんなにキレイなわけがないし、引き出しが整理されているわけがない。泥棒は植木ばさみとか灰皿みたいなしょうもない物を盗む訳がない!タクシーが事故にあっていたら警察官が現場に来て事故の手続きしているはず」とおばあちゃんが納得いくまで説明するのですが、数分後にまた「ない」とか「泥棒が入った」と電話をかけてきて、再び駆けつけ「通帳は引き出しに入っています。タクシーが事故にあったのではありません」と大きく貼り紙をしたものです。
しかし、おばあちゃんは「そんな貼り紙なんかしてもお客さんが来て見られたら格好が悪い」と言ってはがしてしまって何の役にもたたず、またまた「財布がない」とか「泥棒が入った」と私に電話をかけてきて、駆けつけることばかりでした。
結局は「通帳は引き出しに入っています。印鑑は私が預かりました。決して泥棒が入って盗って行ったのではありません。この紙はがすな!」と赤いペンで大きく書いた字を貼り紙をしたのですが、やはり「格好悪いから」と貼り紙ははがされていました。
本人に悪意はないとわかっていても、私が何度もきつい調子で言うので時には錯乱状態に陥って「だって通帳も財布も印鑑も泥棒が盗って行った」と泣き出してしまい、時間をかけて落ち着かせることもありました。
落ち着かせて数分後、おばあちゃんは「・・・で、私は何で泣いてたんやろ?」と。
認知症。恐ろしい病気です。


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