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春はいかなご [創作落語]

人間の感覚ちゅうのは視覚より嗅覚に関しての方が鋭いそうですなぁ。そやから視覚だけでは覚えも悪いですが、そこに匂いの経験が伴ってくると記憶も鮮明になるんだそうです。
私の記憶力ちゅうのが特にええ加減なもんでして、立体駐車場に車止めたら後でどこ止めたかわからんようになってぐるぐる歩いて屋上まで車探したり、前に出会うた事ある人に「はじめまして」と言うたり、人様と比べると特に悪いようです。「悪いようです」としか言えんくらい覚えてません。そんな事ならひとつひとつ何か匂いを嗅ぎながら覚えていってたら今頃東大に入ってたかもしれず、後悔しとります。人間は40万種類の香りを嗅ぎわけられるそうですから40万個の記憶が可能ですなぁ。英単語もstrawberryを苺の匂い嗅ぎながら覚えたらええわけです。決してグレープフルーツの匂い嗅ぎながら覚えたらあきません。「strawberry=グレープフルーツの匂い」「orange=苺の匂い」・・・なーんて思い出す時がややこしい。昔、匂いつき消しゴムちゅうんが流行りましたが、今から思えばあれは物覚えの悪いお子さん向け商品やったんでしょうか?
3月になると、わたくしが住んでいる垂水から明石にかけての多くの家では明石海峡で水揚げされる「いかなご」ちゅうて、めだかよりも更に小さい魚を醤油、生姜、砂糖、サンショ等々で煮つめた「いかなごのくぎ煮」てな佃煮を作る風習があるんですわ。めだかの佃煮みたいなもんです。これを作った家はその日は家中に匂いがこもっているから換気扇を回すんで外を歩いていても「あ!今日、○○さんのお家、いかなご炊きはったなぁ」とわかるんですわ。そやからこの時期に試験を控えていたら大変です。覚えた事全部がいかなごの匂いとリンクしてしまいますモン。

わたくしの家での出来事です。高校1年の3学期末の試験前の事です。わたくし、数学の試験を翌日に控えて柄にもなく勉強しております。
男「あー、覚えられへん。サインコサイン丹波哲郎じゃなくて、いかなご・・・じゃなくて、一酸化炭素たす二酸化炭素は三酸化炭素じゃなくて、いかなご・・・じゃなくて、春はいかなご、いや、あけぼの?あー、覚えられへん。一昨日は東隣、昨日は西隣、今日はお向かいからいかなごの匂い。覚えようとしたら全部いかなごの匂いが邪魔しよるやんか」
覚えようとすればするほど匂いが鼻をつき、勉強よりも匂いとの格闘です。
男「あー、やっぱりアカン!鼻センしてもいかなごの匂いが微かに入ってきよる。皮膚からも入ってきて記憶の邪魔をするやんか。朝から何も食ってへんけど、いかなごの匂いだけで腹一杯や!覚えた事全部いかなごやんか。もうええわ!明日の試験の答え全部『いかなご』て書いたるねん。この匂いだけで腹一杯で眠たなってきたから、もう寝る~!」
そして無事?期末試験も終わって、その頃先生は?といいますと、のんきに成績をつけております。
先生「ん?何や?さっきからいかなごの匂いきつすぎるやんか!今日、嫁さん、いかなご炊きよったんかぁ。うちだけやのうて近所中からもいかなごの匂いやんか。最初はええけど、ここまでなれば『匂い』というより『臭い』やな。焼肉屋の隣の家が、毎日焼肉の匂いがしたら悪臭や言うて訴えたら損害賠償せえっちゅう判決出た事あったけど、ここまでいかなごの匂いがしたらそれと同じやなぁ。○×つけるんに気ぃ散るやんけ」
お陰でわたくし、数学の試験100点でした。


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